行政書士ブログ

《認知症でも遺言書は作成できるのか》

遺言のご相談で、「親に遺言を書いてもらいたいけど、認知症なんです・・・」というケースが時々あります。もうどうすることもできないのでしょうか。

結論から先に言うと、認知症になってしまったからといって、必ずしも遺言書を作成できないわけではありません。
民法では、「15歳に達した者は、遺言をすることができる。」(第961条)、「遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。」(第963条)とされており、15歳以上で、かつ、遺言能力があれば、有効に遺言を作成することができます。
ここに遺言能力とは、遺言の内容を理解し、これによってどのような結果が生じるかを認識できるだけの判断能力をいいます。
では、この遺言能力の有無は、どのように判断されるのでしょうか。
遺言能力の有無が争われた過去の裁判例によると、主に①精神医学的観点、②遺言内容の複雑性、③遺言の動機、理由、遺言者と相続人または受遺者との人的関係、という3つの要素から判断することが多いようです。

①精神医学的観点
遺言時に遺言者がどのような精神状態であったかを、カルテ、診断書、看護記録、認知機能検査結果等により、認知症等の精神障害の有無及び進行度合いが判断されます。
認知機能検査の一つに、長谷川式簡易知能評価スケール改訂版(HDS-R)というものがあります。この検査は30点満点で、大きな目安としては20点以下の場合には遺言能力に疑いが生じ、認知症であることが確定している場合は20点以上で軽度、11~19点で中度、10点以下で高度と判定されます。点数が低い人の遺言は無効とされやすい傾向にあります。

②遺言内容の複雑性
遺言の内容が、遺言者の動機・理由に照らして自然・合理的なものかどうかが判断されます。
また、遺言内容が単純(例えば、一人の相続人に全ての財産を相続させる)であると、多少遺言者の認知機能が低下していたとしても遺言能力があると判断されやすくなります。
他方、遺言内容それ自体が複雑(例えば、多様な財産を複数人に分けて相続させる)なものだと、その意味内容を的確に認識することは困難ですので、遺言能力はないと判断されやすくなります。

③遺言の動機・理由、遺言者と相続人または受遺者との人的関係
例えば、遺言者と同居し介護をしてくれた相続人に対して多くの財産を相続させるというの遺言の場合には、遺言内容の合理性・動機の自然さが認められ、遺言者本人の意思によるものと肯定する要素になります。
逆に、遺言者と親密な関係にあった相続人への配慮が見られず、遺言者と疎遠であった相続人に全ての財産を相続させるといった内容の遺言がされていれば、遺言内容の不合理性・動機の欠如あるいは不自然さから、遺言者本人の意思によるものであることを否定する要素になります。

<遺言を無効とされないために>
高齢者が遺言を作成する際には、どうしても認知症の懸念がついて回ります。そこで、高齢者が遺言を作成するときに注意すべき点をお伝えします。
①公正証書遺言にする
遺言を遺す方法は自筆証書遺言や公正証書遺言がありますが、高齢者が遺言をする場合は特に公正証書遺言をお勧めします。
公正証書遺言は、公証人が証人二人の前で、遺言能力があるかどうか判断し作成してくれます。また、内容の不備によって遺言が無効になることや、偽造のおそれもありません。第三者が誰も確認しない自筆証書遺言に比べてはるかに信用性は高まります。

②遺言能力があることを立証するための証拠を残しておく
公正証書にすることで信用性が高まるといいましたが、公正証書で作成したというだけで遺言能力があることが担保されるわけではありません。つまり、公正証書遺言であったとしても、その後の裁判で遺言能力がなかったと判断されればその遺言は無効となってしまいます。
遺言が無効か否かの争いになった場合には、遺言作成時近くの医師の診断書等が判断材料になります。遺言作成の時に診断書をもらっておくことで、争いを未然に防ぐだけでなく、裁判になったときのために証拠を残しておくことができます。また、遺言者の普段の生活の様子や会話を動画で残しておくのも良いでしょう。

以上、認知症=遺言不可というわけではありませんが、認知機能があるうちに遺言を作成すべきであることは言うまでもありません。行政書士法人みらいリレーションでは、遺言作成のお手伝いをさせていただいております。お気軽にご相談ください。

行政書士
大和秀之

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